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インバウンド客が来なくなったら、まず何をすべきか?
7月から8月にかけて「日韓関係の悪化が原因で…」を枕詞につければ、ほぼなんでもニュースになるかのようなノリで、航空便の減便や来訪者数の減少をメディアが連日報道を繰り返しています。しかしながら、このところの減少の理由は、不買運動等の日本商品購入を萎縮させる韓国の社会環境の他に、2つほど原因があります。
その1つは為替変動であることは、以前のブログでご紹介いたしました。 もう一つの原因をこのブログでお伝えします。もう一つの原因はあくまで日本側のマーケティング力に起因する話です。
客のマーケットへ乗り込んで現状を見れば答えはわかる
個人のリピート客が多い街ほど、旅行記が増える
韓国人の旅行情報の依存度は今も1位ブログ 2位インスタグラムであることに変わりありません。しかしながら、これらWEBから取れる情報が多岐にわたりだすと、旅行会社が発刊するようなガイドブックではなく個々人が書くエッセイ型旅行本(以下、旅行記)が増え始めます。旅行記が記される地域は個人客のリピーターが多く、旅行の目的意識がより明確になってきます。韓国の書店の棚を覗いてみます。まずは国内旅行の旅行記の棚です。
行先は済州島などが多いのですが、テーマは極めて細分化されています。テーマが多いということはwebでもこれらのテーマで検索されていることを裏付けています。これらの事象を頭に入れたうえで、韓国→日本旅行においての現状はどうなのか?同じ書店の棚から考察してみます。
旅行記が多い街 ①東京 ②京都 ③福岡 …
①東京
やはり何と言っても東京へのトレンド追及力は絶大です。普通の町中散策やカフェ巡り、独り旅向けのエッセイやガイドブックなど、コアな内容の本が多く見受けられました。
②京都
文化を徹底追及したもの、高級旅館巡りだけに特化したもの、など京都のすべてをきちんと理解して他人へ伝えようとする気持ちが表れた専門的かつ内容の深いものが目立ちます。
③福岡
他地区とは打って変わって、お手軽に書かれた本が多々揃っているイメージがあり、来訪も手軽ならば、出版も手軽なエリアという感じを受けました。しかし情報は地元民の私が見てもセンスのあるところを網羅しています。
④北海道
北海道をテーマにした書籍は写真力が強いものが多く、来訪する人がみな追随したくなる見せ方が整ったものが多く感じます。他方でエリアに偏りがあり、道南・道東の情報が相対的に少なく感じました。
⑤沖縄
海をテーマにしたもの、長期滞在をテーマにしたもの、ドライブをテーマにしたものなど北海道と同じく写真の見せ方と、過ごし方の多様性を引き出した書籍がとても目につきました。
来訪者が多いのに、旅行記をあまり見かけないエリアは?
一方で販売する本棚をひとつひとつ眺めても、全く無い またはほぼ無いエリアがあります。抽出した5か所は「韓国人来訪者が多いのにも関わらず…」というところを挙げました。
①対馬
何よりも悲しいのは年40万人も来訪しておりながら、誰も書籍で取り上げていなかった対馬。個人旅行客が来訪先として写真撮影や人々とのふれあい、消費などあらゆる側面から見て書籍を発刊するまでの魅力を感じておらず、他方で来訪する人たちも書籍等を参考にしようとしていないのだろう、と思しき状態であることが垣間見えました。
②大分
一部の書籍には「福岡」の中に「別府・湯布院のみ」内包されているケースはありましたが、大分県単独でのテーマ抽出をしたり、大分県への訪問をダイレクトに推奨したりする書籍が見当たらなかったです。これでは大分空港へ直接向かうツアーや航空便が確実に売れる動機が少ない状態ですよね。
③大阪
実はこの写真にある2冊以外、大阪をテーマにした旅行記が見当たりませんでした。うち1冊は、料理人である専門家が、大阪を10年街歩きして選び抜いた名店を紹介するもので、非常に読み応えのあるものでした。しかしながら、それ以外には大阪だけを主たるテーマにした本が無く、このままでは大阪は単なる初心者向けの街・リピーターには魅力がない街となってしまいます。2019年に大阪の来訪者が減った原因と密接に絡む現象であると筆者は感じています。
④瀬戸内
高松や松山、岡山などに来訪者が大変増えているにも関わらず、出版されて本棚にあったのは、チョ・サンヒ(최상희)さん(ひーさん)が日韓双方で出版しました、お遍路旅行記 「四国を歩く女子(시코쿠를 걷는 여자 시코쿠 순례길, 혼자이면서 함께하는 여행)」だけでした。ひーさんのように熱い女子が書いた旅行記がもっともっと出ると、四国エリアの個人客が増えます。私見では、うどん(食べる&作る)に特化した旅行記などが出てほしいものです。
⑤東北
青森以外はまだまだ来訪者がいない東北ですが、本棚には東北の専門旅行記は皆無でした。宮城はオルレの招聘を増やそうとしていますが、やはりそれもかつて九州がやってきたように団体客依存型となります。団体客依存は今回のような政治情勢のに大きな影響を受けるので、長期的視野においては予算をかけて積極招聘することには意義を唱えたいと思います。
それよりも東北各地の食品を中心にさまざまな商品とそのバックストーリーが売れるような流れを作っていくべきでしょう。影響力のあるパワーブロガー兼ライターの力を借りることが賢明です。
団体客依存・テーマ性の少なさが大きな原因に
日本ではどの自治体も躍起になって、インフルエンサーや旅行会社を使って旅行客数を増やすことだけに労力を費やそうとしていますが、そもそものマーケティング戦略ができていない中で、単年度で斯様な戦術を取ろうとしても、効果も結果も出ません。
まず第一に知るべきは、日本の競合、あなたの街の競合がどこであるか?を知ることです。その答えも本棚にあります。この写真のとおり、韓国人の海外旅行好きは日本人の比ではありません。これだけのお誘いがある中で、いま敢えて日本に行く・行かせる理由って胸張って言えますか?
今は行く必要ない、そのうち行けばよい、程度に思われているエリアは、残念ながら来訪者数が大幅に減り、航空機の便も減便し、団体旅行は皆無になるでしょう。
個人客には、一人一人に明確な来訪動機があり、その動機を満足させるのに、他所ではできないことと場所を選ぶわけです。そのオンリーワンのアピールポイントを造成もせぬまま、また為替の追い風を待って団体客を呼ぶのが賢明な策とは思いません。
いいでしょうか?訪日韓国人インバウンド市場においては、今回の不買運動事件は、リーマンショック・福島原発事故に続く、3回目の逆風です。それでも同じ愚を犯しますか?それとも今こそ落ち着いて戦略をきちんと練りますか?